実例から学ぶゲームのプロトタイプ開発でエンジニアが気をつけるべきこと

この記事はKLab Advent Calendar 2017の18日目の記事です

皆さんこんにちは、 jukey17 です

私はクライアントサイドエンジニアとしてゲームのプロトタイプを作る仕事を何度か経験しているのですが、今回はその際に体得した自分なりのノウハウをまとめてみようと思います よろしくお願いします

はじめに

この記事では、Unityを使ったプロトタイプ開発をベースに少人数体制(プログラマ・プランナー・デザイナー各1名ずつなど)で開発を進めていった経験を元に話を進めていきます

なのでUnityを使ったゲーム開発の経験がある方を対象とした内容になっています

プロトタイプ開発の仕事での経験ベースの話ではありますが、個人制作や学校・サークルでのチーム製作にも置き換えて考えられるような内容にまとめているので、参考にして頂ければと思います

仕様を素早く実装する → 仕様の変化を先読みした実装をする

最初に どういった考え方でプロトタイプ開発をすべきか というまとめっぽい話から始めます

大枠としてこれを念頭に置いて開発を進めておきたいということが伝わればと思います

プロトタイプ開発は「どのようなゲームを作っていくべきかを模索する」段階であるため、仕様がキッチリと決まっていることはほぼありません

アレを試してみよう、コレを組み合わせてみよう、やっぱりソレは削ろう... このようにして目まぐるしく実装内容が変わっていくのがプロトタイプ開発です

そうなってくるとついつい「とにかく数をこなすために急いで実装しなければ」と考えてしまうのですが、そうしてしまうと使い回しの効かない書き捨て品質なコードを書いてしまいがちになってしまいます

1回実装して終わりであればその実装の速度を重視して書き捨て品質にコードを書いてもよいと思うのですが、プロトタイプ開発では複数の種類の実装をしたり、その中で幾つかの機能を使い回してみたりと、とにかく色々な要素を組み合わせて面白さを追求していくため1回実装して終わりということは絶対にありません

  • 「先週試して外した機能をもう一度復活させたい」
  • 「パターンAで調整したパラメータをパターンBでも使いたい」
  • 「別の機能で使っている演出をとりあえず使い回してほしい」
  • などなど...

プロトタイプ開発では上記のような試行錯誤が沢山繰り返されます(特に後半になればなるほどこのような内容が増えます)

期間内で継続して開発スピードを出すにはこれらの試行錯誤を如何に予測して捌き続けることができるかが鍵だと個人的には思っています

ということで、上記の例を元にこれらの考え方を持ってどのように開発を進めていくのかを紹介していきたいと思います

プロトタイプ開発でありがちなケースとその対応

「先週試して外した機能をもう一度復活させたい」

仕様の定まっていないプロトタイプ開発ならではのよくあるケースの一つです

これをシューティングゲームにて敵を追尾していく弾を発射するという仕様を例に2つのコードを比較してみましょう

  • サンプルコードA
class Player : MonoBehaviour
{
    [SerializeField] GameObject homingBulletPrefab;
    [SerializeField] float homingBulletProgress;
    [SerializeField] float homingSpeed;
    [SerializeField] GameObject homingFinishEffectPrefab;
    
    GameObject homingBulletObject;

    void Update()
    {
        // 追尾弾発射
        if (Input.GetKeyDown(KeyCode.H))
        {
            // 連続では撃てない
            if (homingBulletObject == null)
            {
                homingBulletObject = Instantiate(homingBulletPrefab);
                homingBulletProgress = 0.0f;
            }
        }

        // 追尾弾の処理
        if (homingBulletObject != null && enemy != null)
        {
            homingBulletObject.transform.position = Vector3.Lerp(transform.position, enemy.transform.position, homingBulletProgress);
            homingBulletProgress += Time.deltaTime * homingSpeed;

            if (homingBulletProgress > 1.0f)
            {
                Destroy(homingBulletObject);
                homingBulletObject = null;

                // 着弾したら自機に演出が出る
                var effect = Instantiate(homingFinishEffectPrefab);
                Destroy(effect, 2.0f);
            }
        }
    }
}
  • サンプルコードB
class Player : ShipBase
{
    // 追尾弾の処理は特になし
}

[ReqiredComponent(typeof(ShipBase))]
class HomingBulletFirer : MonoBehaviour
{
    [SerialzieField] HomingBullet homingBullet;
    [SerializeField] float speed;

    ShipBase parentShip;

    void Start()
    {
        parentShip = gameObject.GetComponent<ShipBase>();
    }

    void Update()
    {
        // 追尾弾発射
        if (Input.GetKeyDown(KeyCode.H))
        {
            // 連続では撃てない
            if (!homingBullet.IsActive)
            {
                homingBullet.Fire(parentShip.transform, parentShip.Target.transform, speed, OnLanded);
            }
        }
    }

    void OnLanded()
    {
        // 着弾したら自機に演出が出る
        EffectManager.SpawnPlayerHomingFinishEffect();
    }
}

class HomingBullet : MonoBehaviour
{
    public void Fire(Tranform start, Transform end, float speed, Action onLanded)
    {
        // 弾を発射する処理
    }
}

サンプルコードAでは追尾弾をそのまま自機(Player)クラスに書いていますが、サンプルコードBでは追尾弾を発射するクラスと追尾弾自身のクラスを分けて実装しています

サンプルコードAの場合は表題の対応をする場合は、該当コードをコメントアウトしておいてそれを解除するか、削除しておいてgitなどのバージョン管理システムから掘り起こして復活させなければなりません

サンプルコードBの場合は HomingBulletFirer クラスを Player クラスが付いている GameObject に付けたり外したりするだけで対応が可能です

今回のようなシンプルな実装内容であれば、サンプルコードAのような実装でも一括でコメントアウトするだけでなんとかなりそうですが、もっと処理が複雑になって色んな所に該当コードが散らばっていくとそう簡単にはいかなくなります

サンプルコードBのように 「機能単位でパーツ(部品)を分けておく」 ことで繰り返される試行錯誤にも素早く対応していくことが可能です

Unityではこのようなまとまった処理をパーツ(部品)として扱うコンポーネント指向を基本とした設計がなされているので、サンプルコードBのようなパーツを分けた実装がしやすい構造になっています

実装を進めながらドンドンとパーツを増やしていき、それらを付けたり・外したり・組み合わせたりするだけで素早く沢山のパターンを試せるような状況を作っていくようにしましょう!

「パターンAで調整したパラメータをパターンBでも使いたい」

プロトタイプ開発では複数パターンを用意して遊び比べることが多くこういった話もよくあるできごとです

こちらもシューティングゲームを題材に2つのサンプルコードでどのように対応すべきかを見ていきましょう

サンプルコードA

// 撃てる弾の種類が複数ある・ボムが使える自機
class PlayerA : MonoBehaviour
{
    [SerializeField] int baseHp;
    [SerializeField] int baseAttack;
    [SerializeField] float moveSpeed;
    [SerializeField] BulletType[] usableBulletTypes;
    [SerializeField] int maxBombCount;

    ...
}

// 撃てる弾は1種類で特殊なスキルが発動できる自機
class PlayerB : MonoBehaviour
{
    [SerializeField] int baseHp;
    [SerializeField] int baseAttack;
    [SerializeField] float moveSpeed;
    [SerializeField] float skillIntervalTime;

    ...
}

サンプルコードB

class PlayerParam : ScriptableObejct
{
    [SerializeField] int baseHp;
    [SerializeField] int baseAttack;
    [SerializeField] float moveSpeed;
}

// 撃てる弾の種類が複数ある・ボムが使える自機
class PlayerA : MonoBehaviour
{
    public void Initialize(PlayerParam initialParam, BulletType[] usableBulletTypes, int maxBombCount)
    {
        // パラメータの保持などの初期化処理
    }

    ...
}

// 撃てる弾は1種類で特殊なスキルが発動できる自機
class PlayerB : MonoBehaviour
{
    public void Initialize(PlayerParam initialParam, float skillIntervalTime)
    {
        // パラメータの保持などの初期化処理
    }

    ...
}

サンプルコードAでは2パターンの自機をクラスに必要なパラメータを SerializeField 属性を付けて定義していますが、サンプルコードBではパラメータクラスを用意して初期化処理を呼んだ際にそれを設定しています

どちらのコードも外からパラメータを設定できるようにしている点は同じですが、サンプルコードBではパラメータを専用のクラスに逃している点に注目してください

このようにロジック(自機の挙動を定義する Player) とデータ(自機のパラメータを定義する PlayerParam)に分けることでパラメータの使い回しが容易になります

今回は自機を対象としていますが、シューティングゲームであれば、敵や弾、ボムなどある程度の機能単位でデータを別クラスに逃しておくのをオススメします

このようにして先にデータを切り出しておくことで、ある程度内容が固まったあとにプランナーの人を中心にパラメータ調整を行うといったことになってもスムーズに移行することができます

Unityの場合、データとして扱うために最適化された ScriptableObject やJSONを扱うための JsonUtility などがあるのでそれを活用しましょう!

Tips パラメータを外部から設定できるようにするためには何を使うべきか?

SerializeField 属性(Inspector)を使う

一番手っ取り早いのはサンプルコードAでも紹介している SerializeField 属性を使ってInspectorから設定できるようにする対応です

これは複数パターンを試したり色んなところで使い回したりしないようなパラメータ(ゲーム全体の設定など)を弄れるようにしたい場合に使いましょう

ScriptableObject を使う

SerializeField を使う場合に比べて実装コストは少し上がりますが、サンプルコードBのように複数パターンを試したり色んなところで使い回したりするような場合に効果を発揮できます

一度構造を作ってしまえばデータを複製してパターンも作れますし、そのままAssetBundle化することも可能です

のちのちエンジニアの手を使わずにデータのチューニングをしていくことを見越しておくと先にデータを外部ファイルに逃がしておいたほうがよいです

JSONを使う

利点は ScriptableObject と同じです

最終的にそのデータをどのように取得してくるかを想定して使い分けるとよいと思います

APIを叩いてレスポンスを受け取ってから次の処理に進むようなケースが想定されている場合はデータをJSONで定義しておいたほうが都合が良いでしょう(ステージの難易度情報やデッキの情報など)

「別の機能で使っている演出をとりあえず使い回してほしい」

仮で用意しておき、後から違うものに入れ替えるという状況もプロトタイプ開発ではよくあるケースです

プロトタイプ開発ではゲームの中身をどれだけ面白くできるかに注力して進めていくので、見た目の作り込みが後追いになることが多いです

進め方によってはデザイナーは関与せずにプリミティブなオブジェクト(簡単な記号や図形)のみを組み合わせただけでプロトタイプ開発を行うこともあります

そういった場合でも手戻り少なく実装を進めるにはどうするべきか、こちらもコードを見てみましょう

サンプルコードA

class Player : MonoBehaviour
{
    // HPを回復したときに呼ばれる
    void OnHeal()
    {
        // 回復演出は出しっぱなしにしてそのまま消す
        var effect = Instantiate(healEffectPrefab, transform);
        Destroy(effect, 1.5f);
    }

    // HPがゼロになったときに呼ばれる
    void OnDead()
    {
        if (isDead)
        {
            return;
        }
        StartCoroutine(PlayDeadEffectCoroutine);
    }

    IEnumerator PlayDeadEffectCoroutine()
    {
        var effect = Instantiate(deadEffectPrefab, transform);
        yield return new WaitForSecond(2.0f);

        Destroy(effect);
        // ゲームオーバー処理
        GameOver();
    }
}

サンプルコードB

class Player : MonoBehaviour
{
    // HPがゼロになって死亡演出が完了した後に呼ばれる
    public Action OnFinishDeadEffect { get; set; }

    // HPを回復したときに呼ばれる
    void OnHeal()
    {
        EffectManager.EmitHealEffect();
    }

    // HPがゼロになったときに呼ばれる
    void OnDead()
    {
        EffectManager.EmitDeadEffect(OnFinishDeadEffect);
    }
}

サンプルコードAでは Player クラスに直接エフェクトの発生処理を書いているのに対し、サンプルコードBでは エフェクトの発生処理を EffectManager にお願いする形になっています

自機のための演出になるので Player クラスに処理を書くと言う考え方は間違ってはいませんが、ゲームでの演出処理は「演出が終わったら」や「途中で中断したい」などの複雑な対応をするケースが多いです(そして調整の度にそのタイミングが代わります)

Prefabなどにまとめて全て演出側に処理を逃がせれば理想的ですが、内容がコロコロ入れ替わるプロト開発ではいきなり全ての処理を外に逃がすのも難しいです

そこでサンプルコードBでは EffectManager なる演出の複雑な遷移などをアレコレ吸収してくれる機能を外に用意しました

このようにしておくことで演出の差し替えが後で入ったとしても基本的には EffectManager に手を入れるだけにすることができます

ただし EffectManager をそのままエフェクトを何でも処理してくれる便利屋として扱っていくと今度は EffectManager が肥大化していって整理が難しくなってきてしまうので、その場合は様子を見つつ EffectManager も分割していきましょう

まとめ

ということでここまでつらつらと書き連ねて来ましたが、内容的にはプログラミングを設計する上で気をつけた方がよい基本的な事柄をまとめているということに気づきましたでしょうか

要は プロトタイプ開発であろうと速度重視の書き捨てコードを書くべきではない というのが私の結論です

少人数(1人)で開発を進めていくとついついルーズにコードを書いてしまいがちですが、開発が進んでいけば自分以外の人も多く関わってくることを考えると常に整理しながら開発を進めていけるのが理想です

個人の開発だったとしても、何日か経ったあと自分の書いたコードを見返して何が書いてあるのかよく分からなくなると言う経験はしたことがあるはずです

未来のチームメンバー(自分)が少しでもラクにできるコードを書くように心がけていきましょう!

明日の19日目はsuzu-jさんです。よろしくお願いします。

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